第2回『チェンバロ、クラヴィコード、フォルテピアノ、ピアノ、そしてウーリッツァー~17世紀から20世紀、歴史を旅する鍵盤楽器~その3』

2013年11月22日更新

アメリカ・ウーリッツァー社の電気ピアノ(Electronic Piano)は1954年に初めて造られ1955年に発売されたそうです。

創業は1934年、パイプオルガンの製作からスタートし、その後自動オルガンや電子オルガン、ジュークボックスのメーカーとしても名を馳せました。

アコースティック・ピアノも製作していたウーリッツァー社はグランドピアノのアクションのしくみを利用し、金属製のリードを叩いて発音、電気的に増幅する電気ピアノを作り出しました。ロックやポップの世界ではウーリッツァー、という社名が楽器の名前として定着してしまったということなのですね。

ライブに足を運んでくださったことのある方にはおそらくお馴染みのわたしのウーリッツァーは多分Classroom106 Beige というモデル。文字通り学校の音楽教育用に作られた、と聞いたことがあります。

ウーリッツァーと並ぶヒストリカルな二大電気ピアノと云えばフェンダー・ローズですが、あの楽器も元々は精神療法のために作られた歴史があるそうです。ふたつの電気ピアノの共通点は特徴的なトレモロ効果。

確かにあの独特のトレモロは神経を沈静化し、心を落ち着かせる効果があると感じます。トレモロの深さや幅をシンプルなつまみで調整出来るのも魅力です。因みに私の目盛りはいつも8~10の最深です(笑)。

ウーリッツァーの電気ピアノは1982年まで製造され1984年まで販売されていました。いま手に入れようと思うとモデルにも依りますが25万~30万円になるのでしょうか。

ウーリッツァーの特徴は金属製のリードがもたらすシャープなアタックと、それと相反するような転がるように軽く、柔らかな響きだと思います。フェンダー・ローズは音の減衰が非常に長いためウーリッツァーほど明快なアタックが出ませんが、楽器そのものの大きさもあってより深みのある響きです。

私はどちらも大好きですが、演奏していてウーリッツァーは「明るくて可愛い」フェンダー・ローズは「内面的で大人っぽい」と感じます。

バッハの時代より前のクラヴィコード、チェンバロからベートーベンの愛したフォルテピアノ、現代のモダンピアノ、そしてエレクトリカルに音を増幅した電気ピアノ。鍵盤楽器の歴史を駆け足で振り返って来ましたがいかがでしたでしょうか?

全部の楽器に触れて、弾いて感じることはそれぞれの「時代の必要性」、その止まらない流れと相反するように「音を求める心」は何百年経っても変わらない、ということです。

今はプロツールスのプラグインですべての鍵盤楽器のサンプリング音が手軽に再現出来る時代ですが、それもまた"より短時間で、より合理的に"という時代の必要性です。

しかし楽器を目の前にしてふたを開け、鍵盤に触り、楽器全体の重みや響きを身体で感じることは他に換えられない素晴らしい体験だとも思うのです。

そのどちらも必然であり、人間が自由に選べば良いのだと思いますが、音は最初の打撃と響きの余韻、それを包む空気が影響を与えあって出来ているというのを生理的に"識る"ことはとても大事だと感じます。

時代の必要性と時代を超えた必然性、それをどのように両立させてゆくのか。。。音楽に限らず今私たちが考えるべき大きな課題なのではないでしょうか。

一丁前にデビュー25周年なんて言っていますが、鍵盤楽器の歴史や製作家の心にまで思いを馳せたのはやはり現代の素晴らしい製作家との出逢いがあったからだと思います。その技術の高さと「音」に対する感性を心から尊敬するとともに、自分も人と、良い音と出逢いながらまだまだ成長してゆけたら、と心から思いました。


P・S
この記事を書くに当たり久保田彰さんと深町研太さんにお話をうかがいました。本当に有り難うございました。


DVD撮影、フォルテピアノとキャメラとスズキ。