8月25日、またまた晴れ。暑いし。

ね、あんたDRIP DROPのリードヴォーカルをやってごらんよ、合うと思うよ。
『LUCKY LIPS』のリズムを録り終えたあと、ダルそうに鞄を下げてスタジオにやって来た模子に
そう云ったらとたんに目が輝いた。
 
やっぱしね。とSがこっちにアイコンタクトしてる。
 
 
ここはさあ、酒を飲んで座ってる、って歌詞でしょ。。。酒を飲んで座ってる、どうすりゃいいのか
考えてる。あの娘は荷物をまとめて夜中の汽車で出ていった。。。
 
ーーなんか演歌っぽいよねええ。そりゃそうでしょ、だってブルースなんだもん。
模子とえりーぜの会話は微妙にかみ合ってなくて笑える。
 
 
あたし、ここにつっ立って歌ってる、どうしたらいーのか考えてる。。。
ってふうに歌いたいな。いい?
 
いーよ、好きにやんな。
 
涙がベッドに落ちていく、屋根から雨が降ってくる、彼は荷物をまとめて、
真夜中の汽車で出ていった。あたしはどーしたらいーのか、
つっ立って歌いながらかんがえてる。
 
 
あはっ、いーじゃんか、あんたらしいね。やってみよっか。
 
Sが模子をスタジオに送り出すと、Nさんがテープを巻き戻す。
 
ハードディスクレコーダーやプロツーになってしまってから誰も云わなくなったコトバ、
”テープ、廻りました。”
L・Aのアシスタントさんはクールな声で”TAPE ISROLLIN’!”って云ってたっけ。
今や廻すものも廻るものも無い。でもここ、Nさんのスタジオには在る。
テープが廻され、イントロが流れる。
 
hey,あたしの頭のうえに、屋根から雨が落ちてくる。あたしの頭のうえに。。。
 
ーー模子がそう歌いだすや、皆んなズッコケて笑いだした。あははっ!おっかしー。いいじゃん!
 
作戦は図にあたった。この曲で彼女を起用する、ってのはまったくもっていいアイディアだった。
 
 
ふと昔のことを思い出す。あたしは14のときテキサスに居た。クラスメートはメキシコの子ばっかりだった。
シンディって名前は友達になったチャーリーって子がつけてくれた。
スペイン語をおしえてくれた。ブエノスディアース!ブエノスノーチェス、アディオス。
シンディ、って名前を彫った皮のベルトをくれた。ほらお揃いだよ、って笑った。
 
 
ラジオから音楽が流れていた。ジャーニーのLOVIN’ TOUCHIN’ SQUEEZIN’とかフォリナーの
HEAD GAMESとかPOP MUZIKとかFUNKY TOWNとか、あとツェッぺリンのALL MY LOVE,
 
 
あの感じはいまでも忘れがたい、ラジオから好きな曲が聴こえたときのわくわくする気持ち。
学校から帰ってくるといつもレコードを聴いた。父親は日本に居たし、母親は働いてた。
あたしはだいたいひとりで居るか、チャーリーとショッピングモールに行ってタコス食べたり、
スケートリンク(一年中やってる)でスケートをした。
 
あのタコスの美味しさったら。いまでも忘れられないよ。
 
チャーリーはショッピンクモールで万引きしてるとこ見つかって、翌日退学になった。
 
あたし、今日でやめることになったんだ。じゃあね。元気でね。
 
先生ふたりに付き添われて、長い黒い髪の毛とジーンズとブーツが学校の廊下を遠くなってく、
その光景をよく覚えてる。
 
 
子供心に知ってた。彼女の家も、クラスメートの誰彼の家も、裕福じゃない。チャーリーの妹は
道路で花を売ってる。彼女は服が欲しかった、デートに着ていく服が。いつもしあわせそうに、
彼氏の話をしてたから。いつもジーンズに、履き古したカウボーイブーツだったから。
 
 
友達が去って、音楽だけがあった。あたしと音楽はすごく深い関係を結ぶことになった。
 
だって、無いんだよ、それしかさ。生きられないんだってば、無いと。
 
娯楽、なんかじゃないし趣味、でもない。生存がかかってたんだ、自分の。
 
 
想子ちゃんがフォレストーンズのテーマの歌詞を考えてくれた。今日はこれから『DRIP DROP』と、
あと『LUCKY LIPS』のコーラス。この曲のプロモーション・ビデオを作るってウワサがあるけど
本当かしらん。スタジオに並んでヘッドフォンをする。Nさんがマイクの位置を直し、
H澤さんは聴いてるような聴いてないような顔をして聴いてる。
 
じゃあ女の子たち、歌おうか。
 
♪NOW LET THE SINDEE&FORESTONS SING IT!
THEY’LL TAKE YOU GET YOU LET THEM SING WITH ME!!
 

〜つづく。〜

8月24日。晴れ。今日ももちろん、暑いのよ。

2週間の御無沙汰でした。あたしは久しぶりに風邪ひいちゃって、熱がぜんぜん下がんなくて
タイヘンだったよ。でもそのおかげで映画をたくさん観られたし、抗生剤にたよんないで自己治癒
力、ってやつを試すことができた。あなたはどうしてた?

ーー8月24日。晴れ。今日ももちろん、暑いのよ。

13時半からPOISON IVY。昨日と同じ、Sがあたしのドラムにピアノをダビングする。

こないだも書いたけどベースのかわりに、ドアーズ方式でオルガンの低音を弾く、これがノッってくると
面白いんだってSは云う。

最初は単音ばっか弾いててつまんないんだけど、曲の欲しがってるグルーブ。。。みたいなもんが
掴めてくると楽しくなる。どの曲にも欲しがってるリズムがあり、音色がある。。。それを探っていくのが
楽しいんだね、きっと。

ねえねえ、デジピが嫌いってこないだ言ってたよね。そんなに好きなもんがハッキリしてると苦労しない?

Sはいっしゅん真顔になったけどすぐあら。。。わかる?と笑った。そーなんだ、孤立したよーな気分になっ
ちゃう、時々。

孤立かー。
でも個体差ってあっていい、みんないっしょである必要なんて無いんだし。
”世の中に合わせなきゃいけないんじゃないかプレッシャー”を感じたらこう云うんだ、

だってあたし、個性的だから!
だってあたし、独自の感性、があるから!(このへんで笑っちゃうんだけどさ。)

・・・ってさ。そんくらい思っとかないと、間違ってんじゃないかってココロ細くなっちゃうよ。

ーーねえねえ、こんなふうに思うことあるんだ、あたしの頭の上にさ、なんかでっかい光のバルブみたいなのが
あってさ、そっからこう、ぴかーっとまっすぐに光が照射してんの、あたしは頭をぱかっ、と開けてそれを受け
止めてて、なんつうかあったかくて有り難いかんじがして、すごく元気になるんだ、そういうのってない?

ーーそういうのってない?。。。って云われましてもナンとも返し様が無いんでございます。
あのさ、それさ、あんまし人様の前で云わないほうがいい、かもよ、電波系?って思われちゃう。
光のバルブが照射って。。。ヤバい。

Sのハナシにはホント、ついていけない時があるんだけど、じつはこれにはちょっとピンとくるところもあったんだ。

誰だって独りで生きてる。コドクを恐れたらなんにも出来ない。でも孤独、になり過ぎたら自分を見失う。
そんなあやういバランスで生きなきゃならないのが人間ってものだとしたら、

何かの信念、が要る。信仰、っていってもいいかもしんない。あたしの感じだとそれは特定の宗教に入る、
ってこととも違う。WHAT THE WORLD NEEDS NOW,IS FAITH,SWEET FAITH。。。ってなもんだ。

あたしたちはいっしょに何かを探そうとしてる、歌うことで救われようとしている。年下の女の子たちを
かばってやらなきゃならないとつよく思うのもその理由による。

LPNo.9,POISON IVYの歌をやる。もういっかい歌わせて、というあたしをNさんが止める、もう
じゅうぶんいいのが録れてるよ、こっちに来て聴いてみなよ。

リーバー&ストーラーの曲は本当に楽しい。的を得ていて正確。簡潔にしてエレガント。
この素敵さを伝えることが出来るだろか?

でも歌ってて思った、音、はあたしにとってよろこびと驚き、以外のものではない。
予想がついてしまうものをどうしてやりたいと思うだろう。

夕方からDRIP DROPのリズム。ディオンのバージョンのロックなかんじと、ドリフターズ・バージョンのジャズな
かんじ、をテンポチェンジで表現してみた、とS。ちょっとややこしくて何度か失敗。しょーがないでしょほかなんにも
きいてないんだから。5回めくらいでやっとオーケー、ピアノをダビング。

しっかしいー加減なピアノだよ、あんた本当にクラシック習ってたんかい?
あろうことかベースはもういいや、あんたのドラムとあたしのピアノでじゅうぶん、この曲は、
だって拓夫さんが来てくれるんだし。なんて云ってる。うへえ。

あ!これ、サックス・ソロにしようと思った部分が抜けてるよ、とS。
え、本当?とあたし。

ほんとほんと。こっからここ、もう16小節なきゃいけないのに、あんたやってないじゃん。
やってないじゃんってあんたが聴いてないからじゃん。

ちょっとケンカになりそーになる。ドラムとピアノを別に録ってるからこういうことが起きる。

アナログ録音はこっちのテイクとあっちのテイクをちょちょっ、とつないで〜、
。。。なんてことは出来ませんのです。まして1本のマイクで録ってるんだから一発勝負もいいとこだ。
緊張感と作業疲れがいっぺんに出て逆上しそうになったけど、

ーーま、いいや、サックスのソロはナシにしよう。何が何でもオリジナルみたいじゃなきゃいけない、
なんてこと無いさ。

そんでさ、DRIP DROPなんだけどさ、

何事もなかったように云われて拍子抜けする。この立ち直りの早さ、Sのいいところかもしんない。
(あのいー加減なピアノを聴けばわかる。)

あたし、この曲は模子がうたったらいいんじゃないかと思うんだよね。
あんたもそう思う?あたしも合ってると思う、アイツ、ヤル気のまったく無い女だから。
この曲ってブルースでしょ、あんましヤル気出すと本格派、みたいになっちゃうじゃん、
うん、本格派、はいいけど、本格派と思われたい、ってヤダよね。
そーそー、アイツだったら間違っても本格派、になんか聴こえない、云っちゃ悪いけど。

”ほらさ、セサミ・ストリートで子供が歌うでしょ、あんなかんじ。”

”わかる〜!じゃ、そうしよ。”

っつうことで話がまとまった。たまにはこんなふうに見事な同意をみることもあるのだ。

〜つづく。〜

8月23日。晴れ。何度も言うけど暑い。

LOVE POTION NO.9のドラムとピアノ、ベースをやる。サーチャーズのライブ・バージョンみたいに
やろう、ということになり、だいぶテンポを上げる。

Nさんとっておきの”安いリボンマイク”を使って試し録りをしたらすごくいい音。ドラムを録るっていうやり方も
本当にいろいろで、今でも覚えてるのはぜんぶのパーツにマイクを立てて、その上シンバルをガムテープで
ミュートしてほしい、と言われたこと。あたしのライドはパイステのでっかいやつで、サステインが長くてキラキ
ラ、ごつごつした音でそこがスキなんだけど(ジルジャンはちょっと、上品でおとなしい。)それが気に入られな
かったみたい。こ、こんなことしたら鳴りが死んじゃう、と思ったけど空気を読んで云わなかった。オールド・ラデ
ィックのセットは野暮ったい倍音が命なので、そんなハイファイに録ったらぺたーん、と平板な音になっちゃうのだ。

Nさんの録りかたは本当に野蛮だ。マイクはそのリボンマイク1本、あたしの頭のちょっと上くらいに立って、
叩いてるとちょうど向き合ってるみたい。

何がいい音か、ってのも人それぞれでムズカシイ問題ではあるけど、私にはすごくいい音に聴こえる。
雑で、整ってなくて、そこがいいのだ。

それにしてもコードもクリックも歌もなにもない状態でドラムだけをやらされるのには参る。人の音に頼れないし、
曲がすっかり頭に入ってなきゃなんないし、頭のなかで歌えてなきゃいけない。聴こえてんのは自分のドラムの
音だけ。あたしはイマジネーションを総動員して曲の完成形を勝手につくる。

3〜4回でOKが出た、あ〜テンポ早くて疲れた。

あたしのドラムにSがピアノをダビング。
どんなふうに弾くんだろ、と思って見てたら、ノリノリでがんがんに鍵盤を叩いてる、あんたはジェリー・
リー・ルイスなのか?

Nさんのスタジオのピアノは決してアタックががんがん出るようなピアノじゃない。むしろ繊細な優しい音で、
調律がムズカシイって聞いた。あんなに叩いて大丈夫なのかなー。

後半だけもーいっかいやらして!というSをNさんが止める。いいよこれで、どこが問題なの?
そんな何回もやることない。

プレイバックを聴くと、なんだかミョーなバンド感がある。
いやー、ドラムとピアノって似ているよね、上から力をかけて音を出すところがそっくりだよ、原始的な構造って
言えるんじゃないの、とS。Nさんがリミッターをかけたらなかなかの迫力、別々にやってるみたいじゃないね、
と笑う。

”あたしはデジピ、嫌いなの。もう気が狂いそーになる、”んだってさ。”やたらボタンがたくさんあってさ、
なんかダイヤルみたいなのを廻すとオルガンとかローズ、とかってさ、そんなにオルガンやローズが弾きたいんなら
ハモンドとかフェンダーローズを持ってきたらいーじゃん。”

今日はまだ歌入れじゃないので、女の子たちは来ない。録音にベーシストを呼ぶべきか考えたんだけれど、
結局ドアーズ方式でオルガンを使うことにした。Nさんおすすめのコルグのオルガン、ラブリーで芯のあるいい音だ。

ちょっと休んでから次のPOISON IVYにかかる。ひたすら録音はつづく。

〜つづく。〜

8月20日 晴れ。今日もめっ。。。ちゃ暑い。

『青空のように』のコーラス、パーカッション。
 
 
さあ、今日は長丁場だ。コーラスは3声のダブル、しかも曲のあいだじゅうずっと流れるように鳴ってなくちゃ
ならない。輪郭をハッキリさせるためにマイクは別々、うまくいったら1本のチャンネルにまとめていく、という
計画。
 
 
。。。それはいいんだけど、Sがなんか落ち込んでる。この人、B型のせいか感情がすぐ顔に出るので
わかりやすいっちゃわかり易いんだけど、もうコーラスをやってベルをやってほぼ完成、ってとこまで来
てるのに、いったいどうしたんだろ。 
 
”何か、いいんだか悪いんだかわからない。ちゃんとうまくいってるのかな?”
 
 
は?そ、それは。。。あなたの判断にかかっているのでは。。。?
 
 
昨日やったこと。ドラムとかピアノとかウーリッツアーとかカスタネットとかカスタネットとかカスタネットとか。。。
あ、あと歌もあった。独りでダビングし過ぎておかしくなったのかしらん。うまくいってると思うけどなあ。
 
 
そこにH澤さんが帰ってきてプレイバックを聴かせてほしいと云う。Nさんがテープを戻してプレイボタンを
がっちゃん、と押す。
 
 
。。。いいじゃないッスか、すごくうまくいってると思います、とH澤さん。オリジナルを聴きなおしてみたら
うまくいってるかどうかわかるんじゃない?とあたしが云ったら、Sは頭をぶんぶんヨコに振っていやだ、と
云う。録音が終わるまではオリジナル、ぜったい聴きたくない、だって金輪際カバーする勇気なんて出て
こなくなるに決まってるから。
 
 
そっか。。。それは。。。そうかも。明日からの録音が思いやられる自信の無さだ。大丈夫かなあ、この人。
 
 
とにかく今日はコーラスだ。えりーぜを除く3人でスタジオに入る。もういいよ、S、あんたはそこで休んでて。
ディレクションはあたしがやる。
 
 
コーラスってものはただ音が合ってればいい、ってもんじゃない。音、が合ってるより息、が合ってるほうが
大事、だとあたしはおもう。みんな自分のうたいかたとか音程感ってものがあるけど、無意識に相手に合わ
せたり、ブレスの位置をくふうしたり、自分になったり相手になったり、それがうまくブレンドしたときいい音色
になる気がする。イメージする音色が出来るまでひたすら歌う。
 
 
これだ!ってポイントが掴めたときはすごく楽しい、気持ちいい。あたし、人のバックでコーラスすんの大好き
だったな。リード・ヴォーカルなんてやんなくたってじゅうぶん楽しかった。コーラスってのは、2声じゃコーラス
って云わないんだよ、3声あるからコーラス、なんだ。
 
 
そうおしえられたのは21くらいの時だった。人と声を合わせてうたうって面白い、ココロから感じたのもその
頃だった。
 
 
いまもあたしはソロで歌うことにためらい、躊躇。。。じゃないんだな、居心地悪さでもないし、嫌いでもない
んだけれど、スポットライトを浴びてうたいたい、そんな自分に酔いしれたい!ってことに関しての意識がキ
ハクだ。なんだかこっ恥ずかしい、と思ってしまう。Sもそんなこと云ってたのであたしたちは気が合っちゃっ
て、お互いにえへへ、と決まり悪い笑いかたをした。
 
 
そのSはさっきよりちょっと元気になったみたいで、コントロールルームから指示を出してくる。エーと、
ちょっと音色が沈んじゃったみたい。オッケーわかった、もっと明るくしてみる。
 
 
電球じゃないんだから、コーラスに40ワットとか100ワットとかあんの?と言われそうだけれど、
歌の音色を明るくするにはちょっとしたコツがある。滲ませたり沈ませたり、息といっしょに溶けさせたり、
いろんな音色をつくることができる、--それがいちばん面白いところなんだけど、今日みたいにたくさん
のコーラスをするときは楽しむ、というより必死。録音、はストイックだ。
 
 
Nさんにたびたび言われることは、揃いすぎないほうがいい、ってこと。
 
 
歌いながら自分で自分をディレクションして、いちばんムズカシイのはそこ。完璧、を求めて何度もやる
うちに、Nさんいわく”誰も入ってこれない”ようになってしまうこと。うーん、深い。
 
 
ああああ低かった!もーいっかいやらして。ごめん、あたしだけ短かった、もーいっかい。誰かがそう云う
だびにNさんはテープを巻き戻す。卓の前で音を調節し乍らレコーダーを操作してパッチを差し替えて、す
ごく大変そうだ。
 
 
誰でも入ってこられる部屋、みたいな気持ちになる、って本当にムズカシイ。一人っ子で鍵っ子だったもん
だから、スポットライトを浴びる快感、と同じくらいあたしにキハクな要素ではある。
 
 
ーープレイバックを聴いてみると、。。。あららっ、なんだかいい感じではない?
オリジナルのコーラスに似てる、なんて云い過ぎだけど、ちょっとだけ近いかんじもあるよ。
”くっきりして明るい音色”、そう、これが録りたかったんだ。
 
 
  
”わかった!それはね、アナログで録ってるからだよ。”
 
”なんかね、歌を録っててもね、普段耳に聴こえてる自分の声と同じ声が聴こえる。
なんつうか「聴こえてるもの」が聴こえる。だから好きなんだ。”
 
 
 
えりーぜが最後のハイ・パート、ストリングスのフレーズを歌う。いちばん高いとこは上のF♯、G、ん~、
高い。ダブルにして、ドルビー抜き(Sの大好きな)にしたらかなり存在感が出た。イントロとサビとエン
ディングに、みんなでベルをやる。クリスマスとお正月がいっぺんに来たみたい。可愛い。
 
 
この曲はほんとうにシアワセになるなあ。なんでだろう。何の秘密があるんだろう。
わからないからきっとSはカバーしたいんだろう。
 
 
さあ、これで拓夫さんがバリトンとテナーをダビングしに来てくれたら本当に出来上がりだ。
コピーをもらって、みんなで調布にお茶をのみにいく。歌ったあとなんでミョーにハイテンション。
明後日はLOVE POTION NO.9のリズムをやるよ、とS、どんなふうに録るのか、テンポはどー
するのか、は”まだ決まってない。”だって。
 
 
 
だ、大丈夫かな~。。。(涙)。
 
 
 
~つづく。~
 

8月20日。晴れ。今日もめちゃめちゃ暑い。

『青空のように』のコーラス・ダビング。FORESTONESのメンバーが揃う。さっきからNさんとSが16チャンのトラックをどう使うか、について話し合ってる。H澤さんがエクレアとシュークリームを大量に買ってきてくれて、えりーぜと模子は大喜びしてる。

なんでもテープ、というものは廻せば廻すほど劣化してしまうので、それを最小限に食い止めたいのと、

録った音をまとめる”ピンポン”って作業をするとここでまた劣化するので、いかに効率的に音を入れていくか、取捨選択するかが大事なんだそうだ。ふーん、そっか。

ふたりが話してるあいだに一応メンバーを紹介すると、

あそこで鏡をのぞいて前髪を直してるのがえりーぜ、17歳。ソプラノ担当。

なんでえりーぜかって云うと、はじめて会ったときあんた、なんか楽器できる?って訊いたら、出来る!ピアノで『エリーゼのために』だったら弾けるよ、って言ったから。六本木の都立高校に通ってて、どうもサボリとチコクの常習者らしい。彼氏はひとつ年上、ロックバンドでベース弾いてる。いっしょにバンドやってたけど、”いっつもケンカになっちゃうから今はやってない”んだって。一日5食はあたりまえ、いまも2個めのシュークリームを頬張ってる。よく太んないよなあ。新陳代謝がいいのかねえ。若いからねえ。

あたしの隣にいるメガネの女の子が。。。って言っても37、8なんだけど。文月想子ちゃん。2ndアルト担当。歌詞も書く。文学好きで寡黙、でもすごく笑い上戸。教会のゴスペルクワイアで歌ってた彼女に声をかけたのは去年の冬だから。。。もう8か月も前か。

この方もちょっと変わっていて、何かの話で理想のタイプは?って訊いたら江戸アケミと太宰治、だって。あんた、それじゃシアワセになれないよ。。。って老婆心ながら忠告したくなったけど、メガネの奥のキラキラした瞳をみてたら何も云えなくなった。−−大丈夫、想子ちゃんには想子ちゃんのシアワセがある。いちばんスキな小説はフィッツジェラルドの『冬の夢』。行間からにじみ出るどうしようも無い切なさ、が良いんだって。でも村上春樹は嫌い、ってところにあたし、すごく共感する。

そして。。。コイツがうちのグループのワイルドカード、曖昧模子、19歳。1stアルト担当。時間通りになんて来やしないので、想子ちゃんに迎えにいってもらった。案の定まだベッドに居て、え?レコーディングう?そーだっけえ。。。と云ったきりまた寝そうになったんで、たたき起して連れてきたんだそうだ。

コイツはまるで動物みたいだ。食べることと寝ることしか考えてない。いつも眠そうで、ぼさーっとして覇気が無くて、
でもコーラスのヴォイシングだけは誰よりも早く理解する。2度とかのテンションでも平気で歌ってる。

なんで?って訊いたら、昔お母さんにピアノ教室に連れていかれて、ピアノの方はさっぱり上達しなかったけど、何かの役に立つかもしれないからってソルフェージュとコールユーブンゲンを先生に毎週やらされた、でもカンツオーネまで行かないでやめちゃった、んだって。

勿体ないね、でもその判断は正しかった、と思う。もしもそれをおしえないで模子を放りだしたとしたら、まったくハシにも棒にもかからん女になってただろう。有り難う、先生。

そしてあたしは。。。リーダーでリードヴォーカルとドラムを担当してます、SINDEE&FORESTONESのリーダーです。

まあ、これがあたしたちのグループです。どうぞよろしく。

〜つづく。〜

8月19日。晴れ。めちゃめちゃ暑い。

今日からミニアルバムのレコーディング。あたしは不安とキタイが入り混じった気持ち。プロデューサーはなんかヤケに張り切ってる。アナログ録音にこだわっているらしい。

今の時代になんでアナログ?あたしもそう思う、エンジニアのNさんは打ち合わせのときはんぶん呆れた顔をしてた、今はもう作られていないアナログのテープ、Nさんが手がけていた有名なバンドがこのあいだ解散して、それで余ってしまったものーーをそっくりそのまま使わせてもらえることになった。

これはよい兆しだよ、やれ、ってことだよ、ってプロデューサーは。。。長くて面倒くさいな。Sでいいや、Sは云う、興奮したおももちで。

今日と明日はSの一人多重録音にあたしたちが参加する形。曲は『青空のように』。

Sはもう音楽をやめよう、と思っているときにこの曲に”ものすごいショックを受けた”んだそうだ、「なんかもう、一年中ニコニコしちゃうような幸せな気持ち」になってこの曲のはいっているアルバム、『NIAGARA CALENDAR』を”ずーっと聴いてた、”

あたし、まだ音楽に感動できるんだ、ってことに”感動した”んだそうだ、
”なんて言うか、音楽のいちばん素敵なところ。それって人それぞれだけど、自分はこういうものを素敵と思う、
素晴らしいと感じる、それじたいを信じる気持ちが戻ってきたっていうか”、

(Sのいいかたはときどき抽象的でまわりくどい。一応そのまま書いてる)

”だからいつか絶対カバーしたかった、でもまだ全然出来ると思えなくて、でもいま出来ないんだったらいつ出来るの?と思って、”あたしたちの助けを借りて録音に踏み切った、というわけ。

13時半からずっと、いまはカスタネットをやってる。(一度ドラムのOKテイクを録ったけど気に入らなくてもう一回やり直して、ちょっと時間がかかってる)。ひとりで8回ダビングしてる。あたしたちも手伝いたかったんだけど、ずーっと3連を鳴らしつづけられなかった。意外にムズカシイんだ、これが。

Nさんがコントロールルームから声をかける。「なんかね、揃いすぎてて量感がない。もっといい加減にやったらいいかもしれない。」

モニターでSのようすを見てたら笑っちゃう、Nさんに云われた途端にいい加減になってる。指にヒモをいい加減にひっかけて、
デニムのひざ上のとこにカスタネットを打ちつけてるけど、これって。。。ただしい奏法なのかしらん(違うとおもう。)

あ、でも本当だ。揃わないでズレたほうがたくさんの人がやってるみたい、に聴こえる。

〜つづく。〜